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メスの好みはころころ変わる?

私が以前に行っていたメスの配偶者選択に関する研究をまとめた論文が、国際学術誌「Zoological Science」(オンライン公開)に掲載されました。


この研究は、動物において、オスに対するメスの好みが、繁殖に必要な資源の量に応じて大きく変化することを、ハゼ科魚類ヌマチチブを研究対象として、実験的に突き止めたものです。以下に論文の内容について解説します。


メスが、自身や子の適応度※を上げるために優秀なオスを選り好みすることは様々な動物で知られています。このような配偶者選択性※はメスが置かれている状況によって変化することが分かりつつありますが、その選好性に影響する環境条件やメスの選り好みがどのような変化を示すのかなど、まだまだ不明な点が多くあります。


メスの好みがどのような条件で変化するのかを確かめるために、オスが石の下に巣を作り、メスが産んだ卵をふ化まで育てるハゼ科魚類のヌマチチブを研究対象に、石の少ない水槽と多い水槽において、メスの配偶者選択性がどのように変化するのかを調べました。それぞれの水槽に入れた雌雄の数は、オス8個体、メス8個体と同じにしてあります。実験の結果、巣石の少ない水槽ではメスは体サイズの大きなオスを好む一方で、巣石の多い水槽ではメスは背びれが長いオスを選ぶことがわかりました。


ヌマチチブのオスは巣を持っていないと繁殖できないため、オスにとって巣を構えることはとても重要です。今回の実験で、石が多い水槽では多くのオスが巣を持ち、メスとの繁殖に臨むことができました。一方、石が少ない水槽では、巣場所を巡るオス同士の競争に優位な体の大きい少数のオスだけしか巣を持つことができませんでした。そのため、石が少ない水槽に比べて、石が多い水槽の方が、メスにとっては、繁殖相手の候補となるオスが周りにたくさんいることになります。このような繁殖候補者の数の違いが、メスの好みを変化させた要因の1つではと考えています。


今回の研究のように、状況によって、異性に対するメスの好みが全く違ったものになるという事例はこれまでほとんど報告されていませんので、性淘汰理論の理解を深めるための良い研究になったのではと思います。


本研究成果は、2022年8月2日に、国際学術誌「Zoological Science」(オンライン公開)に掲載されました。


DOI:https://doi.org/10.2108/zs210100

英文タイトル:

Takahashi D (2022) Female preference for males varies with resource availability for reproduction in the freshwater goby Tridentiger brevispinis. Zoological Science 39 (6)


※性淘汰:雌雄におけるさまざまな違い「性的二形」の進化を説明する理論。雌を巡る雄間競争と雌の配偶者選択の二つのプロセスを通して性淘汰が働く。


◎琵琶湖で撮影したヌマチチブたちの写真です。手を置いてじっとしていると、集まってきます。しきりに指をつつくので、食べようとしているのか・・・。



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