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20230811 SDGs 探究×研究 サイエンスフォーラム
神戸女学院大学の万葉池および周辺陸域における食物網構造

吉田菜摘希(1)・糸賀友紀(2)・杉野結佳(3)・田中紅音(3)
1:神戸女学大学大学院人間科学研究科
2:兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科/神戸女学院大学人間科学部環境・バイオサイエンス学科卒業生
​3:神戸女学院大学人間科学部環境・バイオサイエンス学科卒業生

方法

 

調査場所

 調査は、兵庫県西宮市に立地する神戸女学院大学の敷地内にある万葉池で行われた(標高49m)。万葉池の周辺はイヌビワ、モチツツジなどの木本類やササ、ベニシダなどの草本類が生育しており、ハシブトガラスなどの鳥類やアライグマなどのほ乳類がしばしば確認される。調査は、2022年4月から10月にかけて、月1回の頻度で計7回調査を行った。

 

生物採集

 万葉池の水生生物相や周辺の陸生生物相を把握するために、生物採集を行った。採集は4名で1時間程度かけて行なった。水生生物の採集にはタモ網を使用し、胴長を着用して池内で行った。また、万葉池周辺の陸生動物として、万葉池の水際から周囲1m以内の動物の採集を行った。陸上動物は捕虫網を用いて、池の周辺または水上部をスイーピングして採集すると共に、地上部を徘徊する昆虫などを目視で確認しながら捕獲した。加えて、万葉池に陶器製のタイル(10×10cm)を1枚設置し、そのタイルに付着した藻類や万葉池の底に溜まるデトリタスも採集した。採集された動物は肉眼あるいは実体顕微鏡を用いて種同定を行った。同定には「原色昆虫大図鑑第Ⅱ巻(森本 2007)」「原色昆虫大図鑑第Ⅲ巻(平嶋・森本 2008)」「クモハンドブック(馬場・谷川 2015)」「アリハンドブック(寺山 2009)」「落ち葉の下の小さな生き物ハンドブック(皆越・渡辺 2020)」を主に使用した。今回、消費者である動物はその食性により、両生類、水生捕食者、水生雑食者、陸生捕食者、陸生雑食者、陸生植食者、そして生産者である付着藻類とデトリタスと合わせて8つの栄養段階に分類した。

 

炭素・窒素安定同位体比の測定

 万葉池および周辺陸域における食物網構造を把握するために、採集した動物の炭素および窒素安定同位体比を測定した。採集された動物は精製水で洗浄された後、炭素および窒素安定同位体比の測定まで-20℃で冷凍保存した。測定は株式会社同位体研究所(https:// www.isotope-lab.com/)および昭光サイエンス株式会社(https://www.shoko-sc.co.jp/)に委託して行った。測定前に、植物体は乳棒および乳鉢を用いて粉砕し、-45℃で24時間凍結乾燥を行った。動物体は凍結乾燥後に粉砕した。乾燥重量が1mgよりも小さい動物は、複数個体をまとめて分析した。検体はシリカゲルの入ったデシケーター内で室温保存した。φ5×8mm固体試料用錫コンテナへ0.6~0.8mgを分取して封入した。続いて、サンプルトレイに試料コンテナをセットし、試料5検体毎に標準試料Alanineを配した。そして、オープンスプリットで接続された元素分析計(Thermo Scientific Flash 2000 Organic Elemental Analyzer)と安定同位体比質量分析計(Thermo Scientific Delta V Advantage Isotope Ratio MS)で測定し、炭素安定同位体比および窒素 安定同位体比を得た。AirとVPDB(Vienna Pee Dee Belemnite)に対するδ表記で得られた測定値に対し、二次標準試料[L-Alanine(δ15NAIR:1.6、δ13CPDB: -19.6:昭光通商)]の測定結果を用いて校正を行った。

 

水質および水深の測定

 生物採集を行った調査日ごとに、万葉池の水温および水質の測定を行った。測定した項目はBOD(生物的酸素要求量)、COD(化学的酸素要求量)、pH、亜硝酸態窒素濃度、リン酸態リン濃度、電気伝導率、濁度、の7項目である。測定には水質測定用試薬(パックテスト、共立理化学研究所)と電気伝導率計(MM-41DP、山形東亜DDK株式会社)および濁度計(TN-100、アズワン株式会社)を用いた。また、水温と水深の測定にはデータロガー(U20ウォーターレベルロガー、HOBO社)を用いた。データロガーは池の最深部に設置し、30分間隔で計測した。また、池の周辺から1.5m程度離れた位置(地表高は約1m)に同型のデータロガーを1台設置し、同様に30分間隔で計測を行った。そして、このデータロガーから得られた大気圧データを利用して水深のデータを補正した。

 

解析

 各動物の食性のグループ化を行うために、炭素および窒素安定同位体比を用いてクラスター分析を行った。結合距離にはユークリッド距離を用い、結合方法にはウォード法を採用した。解析には、EZR ver.1.55 on R commander(Kanda 2013)を用いた。

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